Pb(Zr_<1-x>Ti_x)O_3(PZT)に存在する強誘電相境界、すなわち(1)正方晶/単斜晶、(2)単斜晶/菱面体晶相境界、および(3)菱面体晶/不整合相境界について、その結晶学的特徴を主に透過型電子顕微鏡を用いて調べた。まず(1)と(2)の2つの相境界に関して、0.46【less than or equal】x【less than or equal】0.52組成のPZT試料の結晶学的特徴を調べることにより、その詳細を明らかにした。得られた実験結果の中で、各温度で測定した粉末X線回折曲線から、x=0.52試料の強誘電相は全温度域で正方晶、x=0.50および0.48試料においては、温度低下により正方晶→単斜晶相転移が生じることを確認した。一方、x=0.46試料での回折曲線上には、対称性の低下を示す、回折ピークの分裂等を見出すことは出来なかった。このことは、x=0.46試料の強誘電相が平均構造として擬立方晶系であることを示している。そこで、x=0.46試料のヘテロ構造の詳細について透過型電子顕微鏡を用いて調べたところ、電子回折図形中の回折斑点は分裂等を示さないものの、逆空間には、回折斑点から<112>方向に伸びる散漫ストリークが存在した。また、このストリークを含む回折斑点により結像した暗視野像中には、筋状の複雑なコントラストが観察された。このことは、顕著な圧電性に関係して、x=0.46試料の強誘電分域構造が、ナノメーターサイズの強誘電領域から成る、特異なものであることを示している。 本研究では、(3)の菱面体晶/不整合相境界についても、その結晶学的特徴を調べた。その結果、斜方晶歪を有するフェリ強誘電相に加え、このフェリ強誘電相と強誘電相の二相からなる、特異な二相領域の存在を見出した。また、従来強誘電不整合相と呼ばれている不整合相も、その結晶構造中に含まれる原子変位から、フェリ強誘電体であることが結論された。
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