研究概要 |
本研究は,有機物質から炭素を製造する過程の一部に液相化学処理を用いることによって炭素の細孔構造を制御しようとする研究である.前年度の研究においては,ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を有機系強塩基で液相化学処理した後に高温熱処理及び必要に応じて賦活処理を施すことによって,細孔サイズ及び細孔容量が広範囲に制御された炭素を得ることに成功している.本年度は,前年度の成果を踏まえて,液相化学処理が細孔構造制御において果たしている本質的な役割を明らかにすることを主たる目的とした.PVDFに結晶・非晶領域が存在している状態で液相化学処理を施した場合とこれらの領域が存在しない溶液の状態で液相化学処理を施した場合について,炭素化して得られた炭素の細孔構造を比較した結果,前者の場合には特定の処理条件で細孔が顕著に発達したが,後者ではこのような細孔は形成されなかった.このことから,液相化学処理によって熱分解性及び熱分解における体積減少が著しく異なる領域から成る不均一な構造が形成され,このことに起因して細孔が形成されると結論した.熱分解性の異なるポリマーをブレンドし,それらが相分離してできる組織を利用して炭素の細孔を制御しようとする試みがこれまでになされているが,一方の成分が炭素として残留し他方の成分が熱分解して系から除去されること,目的とする細孔構造に適した相分離構造が形成されること,並びに相分離構造が熱分解温度まで維持されることのすべてが満足されなくてはならないという厳しい制約がある.本研究の方法は不均一構造を利用する点においてはブレンドポリマーを用いる方法と共通するが,結晶・非晶領域に由来する不均一構造を利用していることに特徴があり,この方法で炭素の細孔構造制御が可能であることが明らかになったことにより,細孔構造制御を目的とする出発物質の選択の自由度が大幅に拡大したと言える.
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