研究概要 |
希薄磁性半導体(DMS)は、スピンエレクトロニクスにおける中心材料として期待されているが、応用面で重要となるミクロな磁気的特性はほとんど報告されてない。そこで本研究では、III-V族のDMSである(Ga, Mn)As薄膜(面内磁化、膜厚t=1.0及び0.2μm)について、走査SQUID顕微鏡(SSM)を用いて磁区観察を行った。 t=0.2μmの試料では、再現性良くストライプ型の磁区構造を観測したが、磁区の境界からは、B_Z値にして300μTまで達する強い磁場を検知した。これは、磁区境界で、磁気モーメントが向かいあっていることを意味しており、実際、観測された磁場値は、上記モデルから計算される値にほぼ等しい。しかし、同磁区構造は、静磁エネルギーが増大するため、通常は不安定とされており、異常な構造であると言える。 このような特異な磁区の成因を探るため、charged domainモデルによる解析を行い、次のような結論を得た。(Ga, Mn)Asは希薄磁性半導体であるため磁化が小さく、ネール磁区が安定していると考えられる。材料パラメータから見積もったネール-ブロッホ境界膜厚はおよそ0.2μmであり、本試料の膜厚に近い。さらに、本面内磁化試料では磁気異方性が小さく、その結果、磁壁の周囲サブミクロンに渡って磁気モーメントが揺らぎ、charged domainが有利となる。上記モデルに従ってエネルギー計算を行った結果、charged domainの方が、通常の45度ドメインよりも自由エネルギーが低いことを確認した。また、予想されるドメイン間隔は〜20μmであり、実測値とほぼ等しい。 charged domainモデルによると、膜厚が増加すると、charged domainは不安定化し、通常の45度ドメインが生じる。実際、t=1.0μmの試料ではストライプ型磁区は観測されておらず、上述の理論的な考察と矛盾しない。
|