本研究は、先行構築したフレームワークに目的物質を成長させる組織工学の手法を無機材料合成に取り入れ、マクロスコピックな形態、メソスコピックな構成単位の配列、ミクロスコピックな結晶および表面構造といった多重スケールにおいて高度に組織化された「パノスコピック材料」の合成方法の確立を目指すものであり、上記の研究期間において以下の成果が得られた。 (1)先行フレームワークヘの析出に適した機能性無機材料の選択と合成条件の確立 有機素材からなるフレームワーク上に成長させる必要性から、二酸化チタン、酸化亜鉛などの機能性セラミックスを室温付近の水溶液中で合成する条件を検討し、濃度・pHに依存する溶存種の化学ポテンシャルの制御によって所望の結晶相を得られることが示された。すなわち、目的物質のミクロスコピックな構造制御の可能性が示された。 (2)目的無機材料の成長に及ぼす共存溶存種の効果 前駆溶液中に、特定のアニオンを共存させることで析出する結晶の微視的な形状が変化することを確認し、その種類と濃度の制御によって目的とする無機材料のメソスコピックな構成単位を制御することが可能となった。 (3)先行フレームワークの選択と無機材料の成長によるバノスコピック材料の合成 マクロスコピックな形態制御に適したフレームワークを探索し、コットンなどの有機繊維およびその集積体、ポリアクリル酸などの吸水性ポリマーのヒドロゲル、界面活性剤水溶液の発泡体がフレームワークとして有効であることを見出した。 上記(1)-(3)の方法を組み合わせることで、二酸化チタン、二酸化ケイ素、リン酸カルシウムなどの機能性無機材料におけるパノスコピック構造の設計と合成の指針が得られた。さらに、このようなパノスコピック構造を持つ二酸化チタンにおいて、優れた光触媒活性が得られ、当該構造の有効性が確認された。
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