高融点遷移金属シリサイドは、1500℃近傍での使用に耐えうる超高温耐熱材料として期待されている。とりわけ、C11_b相は結晶対称性が高く、多くのすべり系が活動することから延性相として、C40相は1500℃近傍にて異常強化現象を示すことから、超高温での強化相として期待されるとともに、両相の組み合わせにより、結晶学的類似性に起因した特異な層状組織が形成される。 本研究では、平成13年度、FZ(光学式浮遊帯域溶融)法により、層状組織を一方向にそろえた単結晶ライクな複相シリサイド結晶の作製に成功し、構成組織の詳細について明らかにした。層状組織内の各相の層間隔、ならびにC11_b相の体積率は、熱処理時間に依存した。その結果、C40相間には、V1、V2、V3から成る3つのC11_bバリアントと、120°の回転関係を持つC11_b/C11_b同相界面が認められた。 平成14年度は、さらに方向制御化に成功した複相シリサイドを用いて、その塑性変形挙動、ならびに室温破壊挙動について解明した。一方向に層状組織を制御した二相シリサイドでは、その塑性変形挙動に著しい方位依存性が認められ、層界面と荷重軸が平行な場合、極めて高い高温強度を示し、45°の場合、低強度と十分な加工性を示した。高温変形時の主たるすべり系は、C11_b相中での<111]{110)すべりであり、45°方向では、低温での良好な加工性も期待された。しかし実際には、バリアント界面でのひずみの連続性が不十分であり、期待された延性は得られず、加工性の改善には、{103)<331]すべりの活性化が必要であった。このことは、TiAl-PST結晶における界面でのひずみの連続性と比較し、考察された。また、破壊靭性の改善も複相化により達成され、特にノッチ導入面と層状組織が垂直な場合に、その改善効果が顕著であった。 以上の結果より、シリサイドの複相化は、高温挙動、低温破壊靭性ともに改善することから、新しい超高温耐熱材料として極めて魅力的であることが結論された。
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