研究概要 |
強磁性共鳴によって磁気異方性の解析を行うには,磁気異方性と共鳴磁場の関係式を求めねばならない.強磁性共鳴の理論式は,古く知られていて,(1)SmitとBeljerによる厳密解と(2)Kittelによる近似解がある.従来,私は厳密解を用いて磁気異方性の解析をしてきたが,薄膜試料で膜面内に静磁場を印加した時の解析には,近似解の方が扱い易いので,Kittel式から求めることを試みた.しかし,有名なKittel式に用いる実効的反磁場係数を求める式が,彼の論文では正しくはないということが判明したので,正しい式を導出した.また,Soohooの著書に記述されている式も正しく無いことを証明した.この新しい式によって,薄膜試料について,静磁場を膜面内に印加した次の6つの場合について共鳴式を求めた.それらは,(1)垂直一軸異方性(2)面内一軸異方性(3)立方晶(001)面,(4)立方晶(011)面,(5)立方晶(111)面,(6)斜め異方性である.また,日本物理学会誌の強磁性共鳴の解説記事に誤りを見付けたので,正しく解析した. 実験としては,Feをターゲットに用いた反応性スパッタ法によりFe-O_2系で作製可能な膜(Fe, FeO, α-Fe_2O_3, Fe_3O_4)の種類・結晶構造・磁気特性や,それらの膜を熱処理したときの特性の変化を調べている.2層膜の反強磁性層として今まで,NiOを作製して特性を調べてきたが,α-Fe_2O_3やNiをFeで置換した(Ni_<0.8>Fe_<0.2>)Oを作製しつつある.この膜は,パーマロイ(Ni_<80>Fe_<20>)のターゲットにより作製可能なので,スピンバルブ膜の作製に便利である.
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