研究概要 |
前年度の研究成果に基づいて,今年度は高屈曲特性および高信頼性を有する気孔率傾斜型モノモルフアクチュエータの作製を目的とした。以下に得られた知見を項目別に記述する。 1.積層理論による気孔率傾斜型モノモルフアクチュータの設計 気孔率傾斜型モノモルフアクチュエータの屈曲特性について,実験値と積層理論による計算値が良く一致したことから,積層理論は設計ツールとして有効であると判断された。そして,積層理論からの予測値および実験結果の双方より,屈曲率が最大となる最適組成分布係数が存在することが分かった。本研究においては最適な傾斜組成分布係数は0.9であった。 しかし,気孔率傾斜型モノモルフアクチュエータは従来型に比べると届曲特性が劣ることから,更なる屈曲特性の向上を目指して,積層理論を用いて屈曲特性向上のための物性値分布設計を行った。この設計結果に従うと,圧電定数が減少すると共に弾性率および誘電率が増加するような傾斜化を行うことにより,屈曲特性が向上することが予測され,実験的にこの予測の妥当性を立証することができた。 2.気孔率傾斜型PZT圧電モノモルフアクチュエータの屈曲特性向上のための作製プロセスの検討 1.で得られた設計結果に従うならば,気孔内部に異種材料を充填することにより屈曲特性の向上が可能であるため,含浸処理に適した開気孔率の高い多孔質圧電材料の作製プロセスの検討およびその材料の特性評価を行った。その結果として,PZT粉末と造孔剤の混合プロセスにおいて,造孔剤が焼結で消滅し得る臨界半径以下にならない程度に粉砕・微粉化される混合時間を選択することによって,高い開気孔率を有するPZT多孔質体を作製することができた。またこの多孔質体の物性評価を行ったところ,各材料定数(圧電・誘電・弾性定数)は,気孔率のみならず気孔の種類(開気孔,閉気孔)や異方性にも大きく影響されることが,実験と理論の両面から立証された。そのため,計算手法を用いたミクロ構造設計では気孔形態も考慮に入れた理論モデルを用いる必要があることが判明した。 3.PZT/ポリマー傾斜型圧電モノモルフアクチュエータの試作 最適混合条件下で得られたPZT多孔質体の積層・傾斜化により得られた気孔率傾斜型PZTプリフォームに含浸処理を施すことによってPZT/ポリマー傾斜型圧電モノモルフアクチュエータを作製することができた。しかしながら,最も屈曲特性の改善が期待できる高誘電率ポリマー(金属粒子分散ポリマー)の含浸には成功しておらず,その原因解明とプロセス改善が今後の研究課題である。
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