研究概要 |
今年度はSUS304ステンレス基板上にCr-Taコーティングをダイナミックイオンビームミキシング(DM)法で成膜を試み、その保護性に及ぼすミキシングの加速電圧、膜厚、基板の表面仕上げの影響を調べることを主な目的とした。 複合イオンビーム成膜装置を用い、SUS304鋼およびガラス基板上にCr-Ta合金膜を作製した。ターゲットとして純クロムおよびタンタルを用いた。成膜室の圧力を1x10^<-6>Paまで排気し、成膜に先立ちあらかじめAr^+イオンビーム(フリーマン型イオン源)で試料表面をスパッタークリーニングした。その上にAr^+イオン(加圧電圧0、10および30kV)を照射しながら、Cr-Taの組成が原子比で約4:6になるようにCrおよびTaを同時にSUS304鋼にスパッター蒸着した。なお、膜組成が均一になるように基板を10rpmで回転させ成膜した。,膜厚を0.5、1、2、5μmと変化させた。被覆材のピンホール欠陥の評価は臨界不働態化電流密度法(CPCD法)を用いた。 Cr-Ta薄膜はX線回折により非晶質構造を示した。TEM観察ではイオンミキシングを施さない薄膜は非晶質特有のパターンを示すが、イオンミキシングを施したものは微細なボイドがみられる。12M HCl中でアノード分極曲線を測定したところ、どの試料も自己不働態化しており、膜自体は優れた耐食性を示すことがうかがわれる。Cr-Ta被覆材は、未処理材にくらべ臨界不働態化電流密度は小さく、膜厚の増加とともに小さくなる傾向を示した。注目されるのはイオンミキシングした試料は0.5μmの試料でも、その臨界不働態化電流密度は2μmのイオンミキシングしない試料の場合よりも低いことである。イオンミキシングにより膜の欠陥密度が減少したものと考えられる。さらに基板の表面仕上げが細かなほど被覆材の保護性が高くなることも判明した。
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