研究概要 |
複合イオンビーム成膜装置を用い、ピンホール欠陥面積率がきわめて少ない防食被覆の作製を試みた。ダイナミックミキシング法で作製したCrTa合金被覆SUS304鋼およびCrTa合金層を最外層とする(CrTa-SUS304)傾斜組成被覆SUS304鋼のピンホール欠陥面積率をCPCD法で評価し、さらに被膜を光学顕微鏡観察、EPMA, XRD, SEM, AESおよびTEMを用いて調べ、以下の結論を得た。 (1)ピンホール欠陥面積率(R)の値は基板の表面仕上げの程度に大きく依存した。 (2)CrTaの膜厚が0.4〜5μmの範囲で、膜厚が増加するにしたがい、臨界不働態化電流密度の値は低下し、Rの値も低下する。Rの最小値は5μmの膜厚で5x10^<-5>%である。この値はこれまで報告されている値に比べ、一桁弱低い。 (3)Arイオン照射の加速電圧を30kVまでの範囲で上げると、同じ膜厚でRの値は低下した。イオン照射は被膜の保護性の向上および被膜厚の薄化に有効である。 (4)DM法で作製したCr-Ta被膜はX線回折ではアモルファス単相と見なされるが、TEM観察ではアモルファス相と直径数nmの微細なbcc Ta相の混合相である。膜中にはArガスの取り込みと関連すると思われる直径2〜10nmの丸い泡状模様が観察され、また被膜に接している基板界面にも同様な模様が認められた。 (5)最外層がCrTa合金層で内層がSUS304鋼層の傾斜組成被覆SUS304鋼(傾斜組成部分の厚さが約1μm)のRの値は同じ膜厚のCr-Ta単層被覆SUS304鋼よりやや高い。この原因は、スパッタ蒸着した内層のSUS304層が成膜中結晶成長し凹凸の激しい表面を作ったことによる。さらに成膜条件の検討が必要である。
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