超短光露光によるカルコゲナイド系非晶質半導体の光加工法を確立するため、As_2S_3ガラス試料に対して透明域の波長(800nm)をもつフェムト秒T_1-サファイア-レーザー光(パルス幅約100fs)照射を照射し、試料表面の変化をレーザー顕微鏡により観察した。平成13年度は、T_1-サファイア-レーザー光の2光子吸収過程により光膨張を効率よく誘起できることを実証した。平成14年度は、光膨張の増強を目指した。光膨張は、光励起の際に同時に発生する熱の蓄積による表面の損傷と競合関係にある。表面損傷を避けるため、レーザー光の繰り返しを1kHzから10Hzに下げ、照射強度を1〜200μW、照射時間を16〜1024s、スポット径を6〜20μmの範囲の種々の条件に設定し露光を行った。その結果、以下のことが明らかとなった。照射強度が43μW以上では損傷を受け、露光域は孔となる。一方、8μW以下では、露光域に光膨張を検出できない(検出限界0.1μm)。積算線量2〜3J/cm^2に損傷の閾値が存在する。このときのレーザー光の侵入長を平成13年度に求めた2光子吸収パラメーターから見積もると0.2mm程度となる。光エネルギーが集中した表面近傍は、ガラス軟化点付近まで温度上昇し、熱膨張率は0.4%に達する。これが、同程度の膨張率をもつ光膨張と重畳する結果、損傷をもたらすものと推測される。超短光露光による光加工においては、この損傷閾値に注意を払う必要がある。超短光露光法は、非線形光学過程を利用するため、上記のように精密な強度制御を要するという難点はあるものの、非晶質の種類やサイズを問わず適用でき、加工時間も短縮できるといった、従来の定常光露光法にない長所をもつことが本研究により明らかとなった。今後の発展を期待する。
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