FSD法の特徴である凝固、再溶解の繰り返しによる積層と異種合金間の融点差を利用することで、接合処理を要しない異材接合材の一体成形が期待される。本研究ではFSD法の応用として、複ノズル方式を用いて異種合金の内外筒を同時に積層させることにより異材間の接合処理を要しない中空2重管の一体成形条件を検討した。外筒に低融点のAl-4wt%Cu合金を、内筒に高融点のCu-20wt%Sn合金を用いた。Al-4wt%Cu合金外筒の積層開始から種々の積層開始時間間隔でAl-4wt%Cu合金円筒内部にCu-20wt%Sn合金を積層させた。積層開始時間間隔Δt=0秒の同時積層条件ではCu-Sn合金内筒は良好な円筒形状で作製することができたが、Al-Cu合金外筒は積層の進行とともに円筒形状を維持することができず溶断した。Δt=362秒の試料においては、Al-Cu合金外筒とCu-Sn合金内筒は溶着していなかった。それらの中間の時間間隔Δt=196秒で作製した試料の内外筒界面は完全に溶着しており、外筒側(界面I)と内筒側(界面II)に2つの界面が観察された。SEM、EDX-SEMによる溶質分布の測定結果から、界面I近傍にはα相、βSn相、θ相の3つの相の存在が確認された。また、界面Iと界面IIの間の領域においてSn元素の存在が確認でき、θ相がAl-4wt%Cu合金の組織よりも多く確認されたことから、この領域は内筒からの入熱により再溶解された領域であることが知られた。界面II近傍にはε相、δ相、γ_1相、θ相、α相の5つの異なる相の存在が確認され、界面遷移層はAl-Cu-Sn3元系の傾斜組織となっていることが知られた。これより、Cu-Sn合金内筒が積層・凝固した後、Al-Cu合金外筒の再溶解が起こったものと考えられる。以上の結果より、複ノズル積層造形法において、適当な内、外層の積層開始時間間隔を設けることにより異材間の接合処理を要しない中空2重管の一体成形が可能であることが知られた。
|