本研究では、強い静磁場を利用して試料の融点から1500Kまでの幅広い温度域で半導体融液中の拡散係数を高精度で計測し、宇宙実験の結果および剛体球モデルと比較、検討することを目的とした。 静磁場下で拡散実験を行う際の実験上での必要条件を、有限要素法に基づいた数値シミュレーションにより求めた。そして試料としてIn-Sn、Ga-doped Ge、Ge-Si、In_xGa_<1-x>As、を選び、静磁場下にて均熱イメージ炉中で拡散実験を行い、それぞれの融液中の相互拡散係数に関して以下の結果を得た。 1.InSnでは、融点近傍では剛体球モデルの予測値に良く一致し、単純液体に近い構造であることが示された。しかし、宇宙実験では達成されていなかった高温域では、計測値は剛体球モデルよりもむしろ宇宙実験に近い温度依存性を持つことを明らかにした。従って、単純液体と見なされている系の融液でも、今後、より高い温度域でのデータの取得とともに、物理モデルの改良が必要と思われる。 2.Ga-doped GeおよびGe-Siでは、剛体球モデルの予測値を大きく上回り、Geが分子間の共有結合性をわずかに残した構造を有するとしたItamiのモデルを裏付ける結果となった。 3.In_xGa_<1-x>Asでは、状態図上で液相線と固相線の乖離が大きいために偏析が濃度分布計測値の再現性を悪くし、信頼性の高い温度依存性を得ることができなかった。今後、地上においてこのような系での相互拡散係数の計測精度を向上させるためには、拡散対法ではなくシアーセル法と静磁場印加との併用が望ましい。
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