研究概要 |
超臨界流体中における種々の化学種の拡散係数の実測値は少なく、特に分子量の大きな物質についての測定値はごくわずかであり、また、その推算方法についても確立されていない。 本研究は分子量の大きな種々の化合物の分子拡散係数について、測定方法の確立、測定データの蓄積、推算法の確立を目的とした。これまでの超臨界流体中における拡散係数測定のほとんどがTaylor法によるものであるが、まず、超臨界二酸化炭素中におけるベンゼンの拡散係数測定をとおして、このTaylor法の測定精度を検証した。また、これまでTaylor法での測定が難しい比較的分子量の大きな溶質について、高分子薄膜を内壁にコーティングしたキャピラリーカラムを用いる非定常応答法を開発した。この方法を用い、以下の11種類の化合物、benzene、phenol、Vitamin K3,α-tocopherol、β-carotene、α-linonenic acid、linoleic acid, arachidonic acid, docosahexaenoic acid, eicosapentaenoic acid、ubiquinone CoQ10について超臨界二酸化炭素中の拡散係数を広範囲な温度、圧力範囲において測定した。またこの場合、Taylor法とは異なり、拡散係数の他に分配係数も算出できるので、種々の化合物についての分配係数の温度、圧力依存性を調べ、また、この分配係数から溶質の無限希釈部分モル体積を算出した。本研究で測定した溶質の最大分子量はubiquinone CoQ10の863で、同方法を用いれば1000を超える分子量の溶質についても原理的に測定が可能である。分子量の大きな溶質についての推算法として、Schmidt数による相関式あるいは超臨界流体の粘度による相関式を用いれば、高い精度で拡散係数を推算できることを示した。また、臨界点付近では熱伝導率や粘度の値が増加し、拡散係数値が低下することが報告されているが、化学反応においても、臨界点付近では光学異性体の立体選択性が向上することを明らかにした。
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