研究概要 |
乳酸は生分解性のポリマーの原料として注目され,光学活性乳酸を生産するために発酵生産が行われている.経済性の向上のために発酵生産と同時に乳酸を反応液から分離除去する溶媒抽出法の適用が特に注目されている.しかし溶媒抽出法では,用いる有機溶媒および抽出剤が多くの場合乳酸生産菌に有毒であった.そこで本研究では有機溶媒に耐性な乳酸菌を用いる新しい乳酸発酵プロセスを構築することを目的として実験を行い,今年度は以下の知見を得た. 1.有機溶媒耐性乳酸菌の獲得 種々の乳酸菌の有機溶媒耐性を系統的に検討し,溶媒の疎水性の指標であるlogP値が1.5から3.5の範囲にある溶媒には多くの場合耐性がなかった.しかし清酒の腐敗菌の一種である火落ち菌は比較的有機溶媒に耐性を持ち,かつよく用いられる抽出剤であるトリオクチルアミンの原液は培地に炭酸カルシウムを含む場合には乳酸菌の生育および乳酸生産にまったく毒性を示さなかった.このような耐性はこれまで報告例がなく,新規乳酸発酵プロセスへの応用が期待できる乳酸菌を見出すことができた. 2.乳酸の抽出分離に関する希釈剤の効果 前述のように抽出剤トリオクチルアミンについて毒性を被らない乳酸菌を見出したことから,この抽出剤の希釈剤について分離の立場から検討した.原液において毒性を示さないものの,分離プロセスに用いるためには溶液の低粘度化が必要であるためにこの点を検討した.トリオクチルアミンの抽出性能は希釈剤に大きく依存し,火落ち菌に毒性を示さないドデカノールで極めて高い分配比を与えた.
|