本研究によって得られた知見は、以下の通りである。 1.新規に開発した回転円板型培養機にて、リグニン分解酵素ペルオキシダーゼを産生する担子菌Coprinus cinereusIFO 30628の培養を行い、酵素生産の最適化を図るとともに酵素生産誘導物質の検討を行った。誘導物質として、白色腐朽菌によく用いられる物質シリンガルダジン等では効果がなく、過酸化水素及び5-アミノレブリン酸の添加でその効果が現れた。例えば、培養3日目に誘導物質を添加した場合1.8〜2倍程度の酵素活性の向上が認められた。すなわち、100U/mlのペルオキシダーゼを生産することができた。なお、過酸化水素の最適添加量は、0.1〜0.2mMであった。今後は、反復回分培養に対して誘導物質の効果を確かめることが課題となろう。 2.上記で得られたペルオキシダーゼ粗酵素液を用い、フェノール及び内分泌撹乱化学物質であるビスフェノールAの重合沈殿処理法の最適化を行った。フェノールのペルオキシダーゼによる酸化重合沈殿処理では、精製酵素より粗酵素の方がフェノール除去に要する酵素量を1/6にまで削減することができた。これは、酵素分子の重合沈殿物への吸着が酵素溶液中の夾雑物によって抑制される為と推測された。なお、フェノールと酸化剤としての過酸化水素との最適モル比は1:1であり、1mgのフェノールを処理するのに必要な酵素量は12〜14Uであった。最適pHは9であり、反応温度を低くするほど高い除去率が得られた。また、この反応系に非イオン性界面活性剤TritonX-100を添加することにより、フェノール除去に要する酵素量をさらに1/4にまで削減することが可能となった。ビスフェノールAの場合の重合沈殿処理もフェノールの場合と同様な挙動を示したが、除去に要する酵素量及び反応時間は4〜5倍であった。
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