本研究では、顕微鏡の標本台の上で実験ができるフロースルーチャンバーの製作を完成し、チャンバーの上で胞子を発芽させ、一定時間間隔でデータをとり、画像解析装置により解析ができるようになった。これによって、発芽してからの菌糸の伸張速度、枝分かれ頻度、先端数の変化などのデータをオンラインでコンピューターに収集することができた。 栄養源濃度、C/N比をさまざまに変化させたところ、菌糸伸長速度、先端伸長速度はともに炭素濃度が10g/1以下では最大を保った。また、分岐形成速度は炭素濃度が1g/1以上、つまり炭素枯渇でなければ一定であった。分岐形成速度は、先端伸長速度と菌糸伸長速度がそれぞれ臨界値以内であるならばそれぞれの速度に依存せず一定であった。フロースルーチャンバーを用いた実験から得られたデータをAspergillus oryzaeと比較すると、M.alpinaは菌糸の伸長および分岐形成はA.oryzaeに比べて早いが、一つの先端からの菌糸の伸長はA.oryzaeとほぼ同じであった。 ミクロ的な形態とペレット形成について、M.alpinaの場合、菌糸伸長速度、先端形成速度がともに高いと、ペレット形態からしだいにパルプ状の小さなペレットが形成されるという傾向が見られた。対照的に、菌糸伸長速度と先端形成速度が低いときは、小さなフィラメント状の形態から大きなペレットが形成された。さらに菌糸伸長速度、先端形成速度が大きくなるにつれて脂肪酸生産性も増加した。よって、ミクロ的な形態を知ることにより、マクロ的な形態、さらには生産性までも予測が可能となった。これにより実際の培養の最適化を行うこともできるようになるであろう。 以上の結果から、菌糸は伸長、および分岐を行い、これを繰り返しながら増殖することがわかった。よって菌糸の伸長、分岐形成にはさらに核動きが重要であるので、今後核の分裂とともに細胞周期を制御することによって菌糸形態をコントロールすることが可能であると考えられる。
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