研究概要 |
本研究は、緑色植物の光合成の光化学系II (photosystem II,PSII)で起こる水の酸化による酸素発生系(OEC、Oxygen-evolving center)のモデルマンガン錯体を合成することおよび光合成系の光捕集系を模倣した人工光捕集アンテナ系を構築し、それらを合体した人工光合成系の開発を目的とした。本研究で得られた成果をまとめると次のようになる。1三座シッフ塩基配位子を用いて三核マンガン錯体の合成に成功し、それらの分子構造を明らかにすることができた。2.親水性基としてスルホン酸基を、親油性基として長鎖アルキル基をともにもつ両親媒性シッフ塩基配位子を合成し、これらから両親媒性Mn(III)錯体を得た。これらの錯体は、ミセル形成によって集積化すること、ならびに臨界ミセル濃度(CMC)以上で過酸化水素の分解を顕著に促進することを明らかにした。3.エステル基を有するシッフ塩基配位子を合成し、ジクロロMn(IV)錯体を得た。これら錯体は水を酸化し、酸素発生能を有することを確認した。ただし、H_2^<18>Oを用いて酸素(^<18>O_2)の生成をMSにより検出する必要がある。4)種々のアルキル鎖長とヒドロキシル基を導入した亜鉛クロリン誘導体はレシチン共存下、水に可溶化し、レシチン分子集合体と特異的に相互作用することを吸収スペクトル、円偏光二色性スペクトルならびに蛍光スペクトル測定から明らかにした。本研究で得られた成果を基に酸素発生型マンガン錯体と亜鉛クロリン類との複合体を創製すれば、所期の目的であるPSIIの人工光合成系を構築できるものと確信している。
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