本年度は、溶液中に存在する貴金属電極上における原子、分子、及びイオンの吸着構造を原子、分子レベルで検討した。 1.アンダーポテンシャルデポジション(UPD)はめつきの初期過程であり、最近ではナノ構造形成手法としても興味を持たれている。電気化学走査型トンネル顕微鏡(STM)を用いて、硫酸水溶液中におけるPd(111)電極表面上の銅のUPDおよびバルク電析について解析したところ、銅はlaycr-by-laycrでPd(111)電極上に析出することが見出された。1層の硫酸イオンが常に最表面に存在し、それがエピタキシャル成長を可能にしたと考察された。 2.過塩素酸水溶液中において、Ag(111)、(100)および(110)表面上に吸着したアントラセンの構造を検討した。全ての表面上においてアントラセンは基板銀格子と整合しながら、単分子膜としては類似の構造を示した。分子層は分子間及び基板一分子間の相互作用のバランスで成り立つと考えられているが、分子層の形成過程を考える上で、本研究は興味深い例と言える。 3.Ir(111)電極上にシアン化物イオンを吸着させ、STM測定を行った。シアン化物イオンは炭素原子で表面に吸着したが、表面上でリングをなし、そのリングが編み目構造を形成するという、特異な構造を示した。リングの中央にはカチオンが存在すると考察された。本研究は、電気二重層が原子レベルで観察された例であり、さらには表面におけるイオンの認識という点で興味深い。
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