本研究では、シアニン色素J凝集体と貴金属ナノ粒子が近接して配置された系を新たに構築し、その分光特性から励起子と表面プラズモンとの相互作用を明らかにすることを目的とした。以下に、本研究で得られた知見を示す。1.表面をハロゲン化した貴金属ナノ粒子上に色素J凝集体を担持させた系の吸収スペクトルにおいて、J凝集体の光吸収波長で貴金属ナノ粒子の吸光度が減少することを初めて見出した。このスペクトルの窪みはJ凝集体と貴金属ナノ粒子の組み合わせに特異的に出現すること、およびそのスペクトル特性の特徴的な温度依存性などを根拠に、この特異な分光特性は、励起子と表面プラズモンとの抑制的相互作用により発現していると推定された。2.アミノチオール修飾貴金属ナノ粒子上に色素J凝集体を担持させた系の吸収スペクトルでは、J凝集体の励起子吸収が大きくなった。また、色素が金属近傍にあるため顕著な消光が予想されるにも関わらず、強い発光が現れることを見出した。発光に寄与する吸収は表面プラズモンと励起子が結合した吸収が関与していることが励起スペクトルの測定から示唆された。この特異な分光特性は、励起子と表面プラズモンとの増強的相互作用により発現していると考えられた。3.これら励起子と表面プラズモンの抑制的相互作用あるいは増強的相互作用による特異な分光特性は、単純な双極子-双極子相互作用モデルで再現できた。J凝集体・貴金属複合ナノ粒子の作製法により相互作用が抑制的になったり増強的になったりするのは、作製法により貴金属ナノ粒子の形状が変化し、貴金属ナノ粒子とJ凝集体の空間的配置が変化したため生じた差異であると推定された。4.増強的相互作用を示す系は、効率的な光捕集システムになる可能性を秘めており、今後、ナノ粒子の構造をより精密にコントロールすることにより、更に大きな増強的相互作用を示す系を探索していく予定である。
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