研究概要 |
低温有機ガラス中に放射線還元法で生成させたCu^0について、(1)ESRスペクトルの同定、(2)吸収スペクトルの分解、(3)定常発光・励起スペクトルの測定及び解析を行い、溶媒中に存在するCu原子についての磁気的・分光学的情報を得た。(1)ESRスペクトルの同定:Cu原子は2つの安定同位元素^<65>Cu(31.0%)と^<63>Cu(69%)からなることからESR遷移は^<65>Cuと^<63>Cuのペアとして観測されるはずであり、4つの磁場領域で得られたESR吸収線はそれぞれ^<65>Cuと^<63>Cuのペアの(F=1,m=1)⇔(F=2,m=2), (F=1,m=0)⇔(F=2, m=1), (F=2,m=-2)⇔(F=2,m=-1)遷移と同定するのが自然である。事実、この同定を基にパラメーターg_Jおよびaの値をBrelt-Rabi式による値計算から求めると、(F=1,m=1)⇔(F=2,m=2)と(F=2,m=-2)⇔(F=2,m=-1)、および(F=1,m=0)⇔(F=2,m=1)と(F=2,m=-2)⇔(F=2,m=-1)の2つのセットで同一の数値が得られた。このことは、得られたa(^<65>Cu)とa(^<63>Cu)の比a(^<65>Cu)/a(^<63>Cu)=1.07が、自由原子のそれと同一であることとともに、この同定が正しいことを示している。解析の結果得られたa値に大きな負シフトがみられ,Cu^0の不対電子密度がマトリックス分予へ約50%ほど非局在化していることを示す。負のシフト率がマトリックス分子の極性にあまり依存しないことは、Au^0の場合と同様に今回も明らかになったことであり、マトリックスとの相互作用を明らかにする上で示唆的結果といえる。また、3つの領域のペアのESR信号強度やa値がCu^+の濃度に依存していないという事実は、二量体カチオンCu_2^+の信号がCu原子の信号に重なっていないことを示唆している。注目すべき事は、Ag^0の場合は液体窒素温度でトンネル反応によりAg^0+Ag^+→Ag_2^+の二量体カチオン生成が確認されたが、Cu^0の場合には100時間以上の間にCu_2^+による新しい信号が観測されなかった点である。(2)吸収スペクトル:吸収スペクトルは、ほぼ同じ半値幅を持つ7つのガウス型吸収バンド(C_1-C_7)に分解される。C_6,C_7バンドは両溶媒系でほぼ同じ極大波長で観測され、希ガス系でのCu原子における4s→4p吸収遷移と同定される。C_1-C_5バンド(MTHF系ではC_2-C_5)は希ガス系では観測されない凝縮系特有の吸収バンドである。(3)定常発光・励起スペクトル:極大波長520nmの発光は、γ線照射前にも観測されるが、照射後発光強度が激減することから、(Cu^+-ligand)複合体かイオンペアに起因する発光と考えられる。両系とも主として2つの発光バンドが観測され、EtOH系では650及び700nmに、MTHF系では570及び660nmに極大を持つ。650nm付近の発光バンドは両系で観測される。発光中心付近でモニターした励起スペクトルの構造も両系で酷似している。この発光に寄与する吸収バンドは主としてC_2,C_3と考えられる。EtOH系で700nm、MTHF系で570nmに観測される発光は主としてC_4,C_5吸収バンドが寄与している。
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