凝縮相中における金属原子の物性研究が、生体系における金属原子の果す機能や効果の解明に関する基礎研究として重要な意味を持つことから、放射線照射による一電子還元反応で低温有機ガラス中に生成する1B族金属原子の磁気的・光学的特性を調べてきた。平成13〜14年度における本研究では、主として銅および金についての磁気的・光学的特性観測を行い、既に報告済みの銀原子での結果との比較検討から凝縮相中における1B族金属原子が示す共通の、あるいは個々の特異的物性と反応性についての知見を得た。 ESR測定では、銅、金とも各原子特有のESR遷移が観測され、低温有機ガラス中における放射線還元法による金属原子生成を確認した。得られたhfcc値aはAu^0、Cu^0ともAg^0と同じくa_<free>からの負シフトを示した。この結果は凝縮系での還元原子上の不対スピン密度のリガンド上への非局在化を示すもので、非局在化の程度はCu^0が最も大であった。またg_<Jfree>に対するg_Jについては、Ag^0は基底状態へのp軌道の混入と解釈される負シフトであったのに対し、Au^0、Cu^0はともにd軌道関与と解釈される正シフトを示し、これらの系での特徴的異方性相互作用の存在を裏付けた。銀で確認されたdimer cation生成は、銅、金では確認されなかった。光吸収スペクトルは銅、銀、金ともに希ガスマトリックス系に比べ赤方シフトし、溶媒との強い相互作用を示した。凝縮系特有の吸収バンドが銅、銀、金ともに観測され、強い溶質濃度依存を示した。低温固相のエタノールやMTHF中の銅、MTHF中の金の光イオン化は、UV領域の吸収バンドに対応する光励起で起こることが確認された。定常発光・励起スペクトルおよび時間分解蛍光寿命測定からは、銅、金においても銀の場合と類似的な励起原子と溶媒分子との蛍光性複合体の生成を確認した。特に金の場合には、光励起による溶媒分子および近隣の金イオンとの三重項生成と減衰を示すリン光の存在が確認された他、希ガス系で報告されている吸収スペクトルと鏡映関係にある発光スペクトルも確認された。金原子の場合、イオン半径の大きさ、配位数の違いや原子エネルギー準位構造における特異性を反映して発光機構は銀や銅にくらべより複雑化していることが明らかとなった。
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