1.水溶液中のコバルト(II)イオンを臭素酸イオンで酸化することにより、水溶液に浸したガラス基板上にコバルトスピネル(Co_3O_4)の薄膜を析出させた。このときの薄膜析出条件を詳細に検討した結果、Co^<2+>イオン濃度が0.02mol/L、臭素酸イオン濃度が0.25mol/L、反応温度が60℃の場合に最も再現性良く薄腹が析出することがわかった。溶液中の反応物の濃度が低かったり、反応温度が低い場合には、コバルトスピネルの生成が進行せず、逆の場合には粉末状の沈殿の析出が優勢になって、薄膜の析出が起こらなかった。 透明導電性基板上にコバルトスピネル薄膜を作製し、これをKOH水溶液に入れて電気化学的に薄膜を酸化・還元すると、可逆的に薄膜の色が変化する現象(エレクトロクロミズム)が観察された。エレクトロクロミズムが最もよく現れるようにするためには、薄膜を120℃で焼成することが効果的であった。これは、エレクトロクロミズムが発現する際に、電荷補償のためのK+イオンが薄膜に出入りするための空間の大きさが最適になるためと考えられる。 さらに、KOH水溶液中で薄膜の電位を高くしていくと、水の酸化分解により酸素が発生するが、コバルトスピネル薄膜上では、酸素発生に必要な電位が低くて済む(酸素過電圧が低くなる)ことが確認された。このことから、本研究で作製した薄膜は、酸素発生電極蝕媒特性を有していることが確認された。薄膜を200℃以上の温度で熱処理すると、この特性がさらに高くなった。 2.水溶液中の鉄(II)イオンの酸化によりマグネタイト(Fe_3O_4)薄膜の作製を行った。この場合、鉄(II)イオンを酸化して、一旦硫酸酸化鉄水和物の薄膜を析出させた後に、硫酸酸化鉄を再度鉄(II)イオンと反応させて、マグネタイトに変換するという2段階の過程を経てマグネタイト薄膜を得た。この方法によると、硫酸酸化鉄と反応させるものは鉄(II)イオン以外のイオンでも構わないことから、マグネタイト以外にもCoFe_2O_4、NiFe_2O_4、MnFe_2O_4などの薄膜作製にも展開できると予想された。
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