カリックスアレーンの酸素配位サイト、アレーン配位サイト両配位部位への金属錯体フラグメントの選択的、段階的集積法の開発を目指し、今年度はt-ブチルカリックス[4]アレーン(1)のレニウム錯体の開発ならびにそれを利用したヘテロ二核錯体の構築を検討した。まず、n-BuLiで処理した1と(Ph4P)[ReOCl4]との反応により、Re(V)錯体(Ph4P)[ReCl(OH){p-But-calix[4]-(O)4}](2)を、また2を過剰の酸化銀で処理することによりRe(VII)錯体(Ph4P)[ReO2{p-But-calix[4]-(O)4}](3a)を収率よく得た。3aに対応するPPN塩(PPN)[ReO2{p-But-calix[4]-(O)4}](3b)についてはX線解析により分子構造を決定した。Re原子回りは2つのオキソ配位子がcis配位し、カリックスアレーン部分はエリプティカルコーンのコンフォメーションを取っている。これらの錯体はカリックスアレーン骨格に直接レニウムの配位した錯体としては初めての例である。次に、3aを利用して混合金属多核コアをカリックスアレーン上に構築することを試み、[Pd(allyl)(acetone)x](OTf)あるいは[Rh(nbd)(acetone)x](OTf)との反応からRe-Pd二核錯体[ReO2{p-But-calix[4]-(O)4}Pd(allyl)](4)、Re-Rh二核錯体[ReO2{p-But-calix[4]-(O)4}Rh(nbd)](5)を合成することに成功した。興味深いことにこれらの錯体はallylおよびnbd配位子による1H NMRシグナルを通常よりもかなり高磁場領域に示し、Pd(allyl)およびRh(nbd)フラグメントがカリックスアレーンキャビティ内に取り込まれたことを示唆した。実際、4のX線構造解析によりそのような特異な構造を確認することができた。錯体4および5は異種遷移金属を組み合わせたコアをカリックスアレーンのキャビテイ内に構築できた最初の例であり、カリックスアレーン上へのヘテロ多核コアの構築のための方法論開発に重要な知見が得られたと考えている。
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