研究概要 |
近年、新しい分子間相互作用としてその重要性が認識されて来ているカチオン-π相互作用を、立体配座制御の一つの手法として用い、ピリジニウム環の片側を分子内に存在するπ面で遮蔽することで、面選択的付加反応への利用を検討した。目的化合物として、ピペリジンアルカロイドなどの生理活性物質の合成に有用な、キラルな1,4-ジヒドロピリジン類の合成を試みた。 不斉補助基として、アミノ酸より誘導されるキラルなオキサゾリジン基を用い、ニコチン酸アミドを合成し、そのピリジン環に対する求核剤の不斉付加により、キラルな1,4-ジヒドロピリジン類の合成を試みた結果、高い位置および立体選択性で目的物が得られることがわかった。得られた生成物の絶対立体配置はX線結晶解析によりS配置であることを明らかにした。 本反応の立体選択性発現は、カチオン-π相互作用によることを明らかにするため、反応中間体に対応するN-メチルピリジニウム塩を合成し、その構造についてNMR、X線結晶構造解析により検討を行った。その結果、1H NMRよりピリジニウム環の4、5位が大きく低磁場にシフトすることが明らかになり、分子内カチオン-π相互作用が強く示唆された。さらにX線結晶構造解析では、不斉補助基にベンジル基を有するものでは、フェニル基とピリジニウム基が平衡に重なり、その面間隔は約3.4≠ナあることがわかり、二つの面の間にカチオン-π相互作用が働いていることが明らかになった。このような、分子内におけるカチオン-π相互作用を明らかにしたのはこれが初めての例である。本手法の合成的利用価値を示すため、天然物のmeroquinenの合成について検討を行った。ケテンシリルアセタールのピリジニウムへの不斉付加反応を行ない、立体選択的に得られた1,4-ジヒドロピリジンの不斉補助基をShwartz試薬で除去してアルデヒドに変換し、二重結合を水素添加により還元することでcis形のピペリジン誘導体を得ることができた。Wittig反応によりビニル基を導入し、ヒドロキシ基の保護基を脱保護したのち、酸化してカルボキシル基に変換することで、meroquinenの合成に成功した。
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