研究概要 |
申請者は「熱による異性化」で発生する"反応活性種"を複素環化合物の立体選択的な合成反応へと応用することを目的としてきた。 水素移動によるN-無置換1,3-双極子の発生と分子間環化付加反応:複素環アルデヒドのヒドラゾンからのN-無置換アゾメチンイミン生成に続き、オキシム及びイミンの熱反応によりそれぞれニトロンやアゾメチンイリドが発生することが明らかとなった。オキシムから生成するNH-ニトロンは反応性が低く活性なマレンイミド以外の親双極子とは分子間反応を行わなかった。一方、NH-アゾメチンイリドの反応性は高く多くのオレフィン性親双極子と反応し環化付加体を与えた。これらの双極子環化付加体(ピラゾリジン及びイソキサゾリジン)を酸で処理すると逆マイケル型の開裂が起き複素環部が脱離した生成物(ピラゾリン及びイソキサゾリン)が高収率で得られた、これらはC-無置換ニトリルイミン及びニトリルオキシドと親双極子との環化付加体に対応しており、これらのC-無置換双極子は不安定なため合成反応に用いるには多くの問題点があった。今回のN-無置換アゾメチン系双極子の環化付加反応酸による開裂反応はC-無置換ニトリル系双極子の環化付加反応の「等価プロセス」としての意義があり、この反応の一般化が望まれる。 1,6-水素移動によって生成するα,β-不飽和アゾメチンイリドの環化:隣接位にアミン部を有する複素環アルデヒドN-フェニルイミンの環化反応は立体選択的に進行し鎖状アミノ酸由来の基質からは2,3-位がZ-配置の生成物のみが得られ、環状アミノ酸由来の基質ではE-配置の生成物が主生成物として得られた。反応条件下での生成物間の異性化はないことから1,6-水素移動によって生成したアゾメチンイリドのからの環化の段階が選択性に影響していることがわかる。遷移状態の安定性についてより詳細な情報を得るために分子軌道法計算などを用いてその安定性について検討した。 キノンジメチド誘導体の発生と環化付加反応:隣接位にメチル基を有すピリドンやピラゾリノンアルデヒド(或いは園イミン)での1,5-水素移動はこれらの複素環周辺部でキノンジメチドを発生させることがわかった。このキノンジメチドの[4+2]環化付加反応は容易に進行しベンゾ環が縮環した複素環化合物を立体選択的に与えた。反応はエノラアートのマイケル反応-アルドール縮合の連続的段階で進行しており、選択性と複素環部との関連についても検討した。
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