研究概要 |
昨年度までに、パラジウム触媒存在下トシル酸アリル1分子と内部アルキンあるいは末端アルキン2分子から五置換、三置換ベンゼンが、またジイン1分子とから縮合環化合物が得られることを報告している。本反応は分子間および分子内のアルキン、アルケンの多段階の連続した挿入反応により達成される。そこで本年度は、遷移金属-炭素結合に挿入することが知られている一酸化炭素を加えることにより、カルボニル基を含む芳香環の合成を計画した。その結果、芳香環は生成しなかったがトシル酸アリル1分子とアルキン2分子、一酸化炭素3分子が挿入反応を繰り返すことによりラクトンを側鎖に有するシクロペンテノンが得られた。メタノールを添加することによりラクトン側鎖の生長が抑えられ、より一般性の高い単純なシクロペンテノンを合成することにも成功した。前者の反応は、8段階もの素反応を含む多段階の触媒サイクルであり、これだけの多段階反応はこれまでにあまり例がない。また、後者の反応で得られるシクロペンテノンは医薬品や天然物に多く見られる基本骨格であり、実際に、本手法によりメチレノマイシンBの合成中間体を単純な出発物質から単一の触媒反応で合成することができた。 アルキンをアルケンに置き換えて反応を行うと、芳香環は生成しないが1,4-ジエンが得られた。例えば、トシル酸無水物あるいは触媒量のトシル酸の存在下アリルアルコールを過剰量のアクリル酸ブチルと処理すると2,5-ヘキサジエン酸ブチルが高収率で得られる。アリル化合物のアルケニル化は従来アルケニル金属等で行われていたが、本反応は量論量の金属を必要とせずまた副生成物が水だけであり環境調和型反応である。
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