研究概要 |
精緻な形状を的確に認識・情報発信できる合成試薬、すなわち光学センサーの合成は、分子認識化学分野において魅力ある研究課題のひとつである。とりわけ、キラルセンシングは医薬・製薬を含む様々な用途への適用が可能となる。当該研究課題において、われわれは、アニオン認識に基づいて分子システムを展開させる戦略を考えた。あるハロゲン化アルキルからアルカンチオールへ変換する際の鍵中間体として生成するイソチオウロニウム類は比較的安定に存在でき、かつ天然のアミノ酸であるアルギニン残基のグアニジン基と類似構造をもちカルボン酸イオンやリン酸イオンのようなオキソアニオン類と強い親和性を持つ。申請者らはこれをセンサー分子に組み込む設計を考え、具体的に、そのイソチオウロニウム基の電子欠損性を分子内で適当な蛍光団と組み合わせることで、その蛍光特性を、光誘起電子移動(PET)過程を通じて効果的に制御できることを発見し、その性質を有機アニオン種の蛍光センシングに適用できることを示した。平成14年度は、キラルセンシング可能な単一分子システムへの拡張を検討するとともに組織化アプローチを試み、その結果、後者において、長鎖アルキル基を導入した関連両親媒性化合物を合成したところ、それらを組織分子膜とすることにより気-水界面に認識部位を固定できた。気-水界面での水素結合は、バルク中よりも効果的に作用するので、界面は水素結合による分子認識にとって有利な場を提供する。一方、アキラルな分子に不斉情報を伝達・記憶させて任意に不斉場を構築するという新しい不斉分子システムの研究もおこなった。その具体的取り込みとして、20-クラウン-6誘導型1,1'-ビフェニルスペーサーを有する亜鉛(II)ポルフィリンダイマーを合成し、その両亜鉛(II)ポルフィリン部位に対してダイトピックに配位可能な不斉誘起剤とクラウンエーテル部位に配位可能な金属イオンをうまく組み合わせてアロステリー制御を試みた結果、不斉情報をアキラルな亜鉛(II)ポルフィリンダイマー誘導体に伝達し、そして記憶することができた。目下、この方法論を用いて動的不斉認識を発現させ、その現象を読み出すことを検討している。さらに、高い配座柔軟性を有する大環状クラウンエーテル誘導体も合成しその機能性も調べている。その誘導体のひとつが、カチオンとアニオンとの協同的相互作用を経て、その大環状クラウンエーテル部位が不斉配座をとることがわかった。
|