研究概要 |
我々はすでに4つのピリジン環からなる大環状化合物がリチウムイオンを極めて強くまた特異的に配位することを見出している。しかし、この化合物は配位力が強すぎるため、液膜輸送用キャリヤには使えない。そこで、ピリジン環の一つをピリジリデン構造とし、-N=を-NH-とすることにより、配位力が弱まり輸送用キャリヤとして極めて適したものとなることを見出した。これをキャリヤとして海水モデル水溶液(LiCl, NaCl, KCl, MgCl2, CaCl2を含む)より液膜輸送を行ったところ、全金属塩中0.005mol%だったLiClが2.7%に濃縮された。さらに輸送を繰り返したところ、驚くべきことに80%に濃縮されることがわかった。これまでアルカリ金属イオンの輸送には過塩素酸イオンやチオシアン酸イオンのような脂溶性アニオンを対イオンとして用いることが一般的であったが、本研究におけるような塩化物イオンで成功した例は極めて珍しい。このことは、アニオン交換することなく直接海水を用いることができるため、経済的、エネルギー的に極めて有利である。本研究成果は、J. Am. Chem. Soc.に速報として掲載されることが認められ、印刷中である。 さらに最近、長鎖アルキル基をもつ大環状化合物がリチウムイオンを取り込むことにより、分子が特異的なコンホメーションをとり、興味深いNMRスペクトルを与えることがわかり、現在、置換基の効果を検討中である。今後、歪のかかった錯体として、蛍光スペクトル挙動等を調べ、リチウムイオン微量分析用試薬としての利用も検討する。
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