研究概要 |
本年度は、新たに合成したピリジンを含む大環状化合物のさらに効率の良い合成法を探るとともに、共役系およびプロトン移動を制御するために種々の置換基を導入してその立体効果による構造変化を調べることとした。1H NMRスペクトルにより、いくつかの化合物のコンホメーションが温度および溶媒により大きく変わることを見出し、温度または溶媒の極性による共役系の制御が可能となることがわかった。これらのコンホメーションおよびさらに、これまでカラースイッチング現象は亜鉛錯体のみで見出されていたが、リチウム錯体についても検討を行ったところ、リチウム錯体においても、溶媒により色が可逆的に変化することがわかり、その構造を推定した。リチウムイオンの液膜輸送による分離については、これまで原子吸光スペクトルのみにより評価してきたが、今回設備備品として申請したイオンアナライザーは簡便に複数のイオン濃度を同時に測定できるため、選択性の評価が極めて容易になった。本年度はさらに比較のため、大環状構造ではない1,10-フェナントロリン誘導体の合成を行い、輸送用キャリヤに対する評価を行った。その結果、2,9位にカルボニル基をもつ置換基を有する誘導体はリチウムイオンと1:1錯体を作るが、カルボニル基をもたないものは2:1錯体をつくることを見出した。輸送用キャリヤとして用いた場合、後者は輸送速度において優れているが、前者はリチウムイオン選択性において優れていることがわかった。これらの結果は、J. Am. Chem. Soc.、Bull. Chem. Soc. Jpn.、J. Molecular Sci.において発表した。 今後さらに新しい機能をもつキャリヤおよび輸送システムを探るとともに、配位子を固定化し、吸着によるリチウム分離材としての応用を検討する。
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