ヨウ化スズヒドリド(Bu_2SnH)を機軸とした反応剤はアルキンに対して特異な反応性を持つことを見いだした。特にヨウ化スズヒドリドに臭化マグネシウムを添加した系ではところアート型5配位スズ化合物が形成し、この化合物が第1級脂肪族アルキンのα-スタニル化を選択的に起こす事実を確認した。とくに本研究で見いだされたα-ヒドロスタニル化は、従来いかなる方法でも達成されていない初めての発見であり、J.Am.Chem.Soc.誌に速報として発表するに至った。スズ錯体の構造ついては^<119>Sn NMR測定における化学シフトおよび結合定数の測定により可能となり、今後、ヨウ素の求核性などの性質を考察する予定である。本研究においてはα-スタニル化、シン付加といった従来のヒドロスタニル化には全く見られない要素を含んでいる。したがって従来の金属水素化試薬とは異なる全く新しい反応形式を考慮する必要がある。現在のところアート型5配位スズ化合物のカチオン部分がアルキンを活性化し、スズからヨウ素が攻撃する経路を考えている。この段階が遷移金属触媒反応と大きく異なるところであり、反応剤と基質の立体作用が大きく働くものと考えられる。生成したビニルスズ中間体は分子内のスズヒドリドにより還元を受けビニルスズを生成するものと考えている。 今後はヨウ化スズヒドリドの錯体化による反応性、選択性の変化に着目し、分子内配位を利用したアルキンのヒドロスタニル化での位置選択性の制御について検討していく予定である。
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