遷移金属錯体によるリビングラジカル重合を用いて、アクリル酸エステルやスチレンの水中懸濁リビング重合を検討した。鉄錯体は、一般的に水に対して不安定であり、水系での重合は困難であると考えられていたが、ハーフメタロセン型の鉄錯体は通常の鉄錯体とは異なり、水存在下でも安定な状態で存在することがわかった。この鉄錯体と、水に対して安定な炭素-ハロゲン結合を有する開始剤とを用いて水中懸濁重合を行うと、種々のアクリル酸エステルやスチレンが重合し、リビングポリマーを与えることが示された。この水中懸濁重合は、同じ条件下で有機溶媒のみを用いた重合に比べて速く進行することがわかった。特にこの重合系は触媒として、無毒でまた豊富に存在する鉄を中心金属とした錯体を用いている点で、これまでの他の金属を用いた水系リビング重合より環境面で優れていると考えられる。 一方、リビングカチオン重合に関しては、活性化剤として水に対して安定なルイス酸のBF_3・2H_2Oを、また開始剤として炭素-酸素結合を有するアルコール型の化合物を用いることにより、乳化状態で、p-メトキシスチレンの重合が進行することがわかった。生成ポリマーの分子量は、重合初期では重合率の増加に伴い増加し、また、分子量分布も単峰性で、リビング的に重合が進行した。一方、ルイス酸としてBF_3・Et_2Oを用いたり、また乳化剤を存在させない場合は、重合の再現性が得られず制御も困難であった。この重合系は、開始剤がハロゲンを含んでおらず、生成ポリマーにもハロゲンが含まれない点で、より環境に適合した水系精密制御重合系である。
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