ESRスペクトルの検出感度を向上させ、ラジカル重合研究の新たな展開を図るため、いくつかの取り組みを行った。本年度は光照射用のレンズを再設計し、位置をわずかにずらせることで、従来試料管中の試料の2cmの高さにしか光が当らなかったものを2.5cmの高さまで当るように拡大した。その結果、成長ラジカルの観測感度が、若干向上し、これまで観測困難であった、RAFTと呼ばれる制御ラジカル重合中のラジカル種を高感度で観測することに成功した。その成果は現在、Macromolecules誌に投稿中である。わずか5mmの照射範囲の拡大であるが、この効果はかなり大きかった。しかし、まだ、目標とする観測感度の1桁の向上には至っていない。 キャビティの改造にも取り組んだ。光照射用の孔を広げる方法が有効と考え、シミュレーションを行ったところ、マイクロ波が予想以上に漏れ出してしまい、あまり有効な方法ではないことがわかった。むしろ、試料管の形状を再考するなどして、光をより有効にあてる方向へ進んだほうがいいことがわかった。 実際のラジカル検出実験では、新たな知見がいくつか得られた。まず、メタクリル酸エステル類の成長ラジカルの鎖長をESRスペクトルの解析によって識別できる可能性を見出した。これまで、ESRで検出してきた成長ラジカルのシグナルとみなしていたものが、実際に長鎖の成長ラジカルによるものであることがわかった。また、アクリル酸エステル類のラジカル重合では連鎖移動反応が頻繁に起こり、枝分かれの多い高分子が生成していることを明らかにした。このような成長ラジカルのESRスペクトルの高感度、高解像度の検出は本研究課題で改良を加えつつあるESR分光計以外では観測困難である。これらの成果は現在、投稿準備中である。 次年度はこれまでの成果をもとに、検出感度のよりいっそうの向上を目指す。
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