ESRスペクトルの検出感度を向上させ、ラジカル重合研究の新たな展開を図るための、2年計画の2年目に当る本年度は昨年度の光照射用レンズの改良やキャビティの改造の試みを基に、試料作成や測定上の工夫によってさらに観測感度を上げる試みを行った。 試料作成等、測定上の工夫は非常に有効である。たとえば、極性モノマーはベンゼンやトルエンなどの非極性溶媒で稀釈して測定に用いるが、その際、モノマーの混合比を上げると見掛けの生成ラジカル濃度が増大して観測しやすくなる。しかし、その反面モノマーの存在によってQ値が下がる、つまり感度が低下する。種々の効果の釣り合いが取れたところに最適条件が存在し、繰り返し試料を調整することで徐々に最適条件に近づくことができる。この他、感度や分解能に影響を与える要因として、光重合で行うか熱重合か、測定温度、開始剤の選択やその濃度、試料管の形状、光照射の強度、波長、時間等さまざまな要素が関与する。このようなさまざまな条件を少しずつ変えて最適条件を探す地道な努力が高感度、高分解能スペクトルの観測には重要であり、有効であることが明確になった。 実際のラジカル検出実験では新たな知見がいくつか得られた。まず、メタクリル酸エステル類の成長ラジカルの鎖長をESRスペクトルの解析によって識別できる可能性を見出した。また、アクリル酸エステル類のラジカル重合では連鎖移動反応が頻繁に起り、枝分かれの多い高分子が生成している可能性があることを明らかにした。さらに、制御ラジカル重合の手法の一つである可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)の重合系中に生成する中間体ラジカルの高分解能のスペクトルが観測できたことで、RAFT系でのスチレン/無水マレイン酸の交互共重合の末端のほとんどが無水マレイン酸末端であることを示した。 このように物理的な装置の改良と試料作成の工夫とによって本研究での高分解能スペクトルの観測を行った。
|