研究概要 |
本年度は,昨年度試作した評価システムを運用し,高次構造を制御したキラル高分子膜,特にL型ポリ乳酸(PLLA) 膜の旋光性を結晶光学的に評価した. 1)結晶光学的評価に必要なPLLAの旋回テンソル成分g_<ij>の測定 測定結果を以下に示す.(1)巨大な旋光性を主に担う分子鎖方向の旋回テンソル成分g_<33>は8x10^<-3>となり,符号を含めconsistentであった(分子論的に正:無機旋光性結晶は10^<-6>程度であり,それと比べ予測通り巨大).(2)PLLA結晶にはその対称性から二個の独立なg_<33>より遥かに値の小さいが成分(g_<11>,g_<22>)の存在が予測されるが,これも確認した. 2)PLLAの巨大な旋光能の起原(結晶光学的理解) 我々は,複屈折値とg_<ij>が1μmピッチで測定可能なシステムを開発した.この装置を用い測定した結果,巨大な旋光能が発現するPLLA膜には,μm以下の微細な不均一構造が存在することが分かった.更に,その中に,分子鎖の配向方向がtiltしつつも,強い配向状態を示し,高結晶性である領域が存在することを見出した.そして,この不均一な試料の極一部に巨大な旋光性が存在することを発見した.その部位を,cuttingする技術を民間ベンチャ企業と確立し,これを切り出すことで,巨大な旋光性を持つ試料として具現化した.(ここで得られる試料の大きさは厚み・径とも数μm以下である). 3)その他 (1)旋光測定システムを光変調性測定システムへ拡張 微小領域での測定が可能な光変調性測定システムを,ヘテロダイン法を応用し,開発した.測定周波数はGHzまで原理的に可能である.本システムを用い,PLLAの光変調性をMHz領域まで確認した. (2)PLLA以外の高度に高次構造を制御したキラル高分子膜の作製 セルロース誘導体である酢酸セルロースやシアノエチルセルロースを用い,開発した新鍛造浩により高次構造制御を行った.圧力を増大させることで,試料に高複屈折値を示すミクロン以下の領域が出現した.この結果,新鍛造法を用いることで,セルローヌ誘導体の構造も制御可能であることが分かった.
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