研究概要 |
ポリ(L-乳酸)(PLLA)はコーンスターチを原料として乳酸発酵の後、化学合成して得られる生分解性ポリエステルであり、石油以外の天然物-再生可能資源-から合成される数少ない高分子である。多くの生分解性プラスチックの中で性能や価格面からPLLAが実用化に最も近いと言われているが、ガラス転移温度(50℃)以上で極端に軟化する欠点がある。 本研究ではPLLAに最も効果的な架橋剤としてtriallyl isocyanurate(TAIC)を3%溶融混合してフィルムに成形し50kGyの電子線照射して架橋を導入した。この場合はPLLAはほとんど非結晶物であるが、PLLAにTAICを混合した後90℃で熱処理し結晶化度を増加させた試料も作成して比較した。フィルムの耐熱性は熱機械分析装置によって調べた。PLLA非晶物では約90%のゲル分率を示し、融点以上でも完全に不融で形状安定性を示した。またこれは完全な形状記憶効果も示し、様々な応用の可能性が期待される。一方、熱処理PLLAのゲル分率は20〜50%程度で融点以上の形状保持効果は乏しいが、50℃〜融点までの軟化は最も抑制された。また、PLLA繊維やフィルム成形物に後加工でTAICを含浸させ耐熱性を向上させた。成形前加工に比べて結晶化度が高いためゲル化は非晶部へ部分的にしか進まないため、融点以上では部分的な形状安定性しか示さなかった。しかし、未処理PLLAはガラス転移温度以上で軟化してしまうが、架橋PLLA繊維は150℃まで熱安定性が高くなり、アイロン掛けなどが可能になった。架橋PLLAの酵素分解性は半分以下まで低下するが水や土中埋設試験ではほとんど差が見られず、実用的にはほとんど問題がないと考えられる。 この他の化学合成生分解性ポリマーであるビオノーレ(PESU, PBSU及びPBSA)に無機微粒子や架橋剤TMAICを混合し放射線架橋して良好な耐熱性を付与することができた。 化学合成生分解性ポリマーとして上市されているビオノーレの分解微生物33株を単離することができた。これらの単離株の生理学的及び形態学的性質を調べた結果、脂肪族ポリエステル分解微生物はグラム陰性及びグラム陽性菌あるいはカビであった。
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