種子へのリン貯蔵に深く関係する酵素、イノシトール1リン酸合成酵素の機能解析を目的として以下の実験を行った。 1.イネのイノシトール1リン酸合成酵素遺伝子(RINO1)のプロモーターおよびCaMVの35SプロモーターにRINO1遺伝子をセンスまたはアンチセンスに連結させたコンストラクトを導入した形質転換体を作出した。イネ種子に含まれるリンのうち、フィチン以外はほとんど無機リンとして検出される。そこで、無機リン量および全リン量から無機リン濃度を算出し、フィチン態リン濃度を推定した。非形質転換体では、種子に含まれるリンのうち約5%が無機リンであることが示された。すなわち、約95%がフィチンの形を取っていると推定された。ほとんどの形質転換体は、非形質転換体と形態的には区別がつかなかったが、種子に含まれる無機リン濃度が増加する系統がみられた。RINO1プロモーター::アンチセンス導入系統8系統のうち、1系統で無機リン濃度11.7%の種子が、35S::センス導入系統3系統のうち1系統で19.7%の種子が検出され、RINO1遺伝子の発現が抑制されてフィチンが減少した可能性が示唆された。しかしながら、リンの形態の大幅な変更にはいたらなかった。 2.RINO1プロモーター::GUSコンストラクト導入系統の解析から、RINO1プロモーターは種子形成過程以外に、花粉形成や発芽過程でもプロモーター活性を有することが明らかとなった。これは、RINO1が種子のフィチン合成以外でも重要な働きをしており、1の実験でフィチン濃度の変化が予想よりも小さかったのはRINO1の発現を完全に抑制する形質転換体は生存不能となり得られなかった可能性が示唆された。また、予想された胚での発現は見られなかったことから、用いたプロモーターの活性にも若干問題があることが指摘された。
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