研究概要 |
ライムギゲノムに約1万コピー散在し,0.7kbのmRNAに転写されている,全長3,041bpの共通配列を持つ新規の多重遺伝子族の全体構造を決定した。この多重遺伝子族の両端の構造は,オオムギのcopia型レトロトランスポゾンBARE-1の中に挿入配列として見いだされ,gypsy型レトロトランスポゾンのsolo-LTRと推定されているBARE-100(3,130bp)の両端に相同性を示す。共通配列3,041bpの5'側で転写開始点の上流には,gypsy型レトロトランスポゾンLTR5'末端の共通配列14bpを含む149bpのBARE-1005'末端との相同領域(相同性62%)が存在する。一方,3'側では,第2イントロンの途中から第3エキソン下流非翻訳領域3'末端までの768bpの領域がBARE-100の3'側777bpと62%の相同性を示し,3'末端にはgypsy型レトロトランスポゾンLTR3'末端の共通配列14bpが含まれる。この多重遺伝子族は,両末端を不完全な逆位反復配列をなす14bpの保存配列に挟まれているので,新規の挿入配列と考えられる。ノザン解析によると多重遺伝子族は成葉で発現しており,純系ライムギのcDNA30クローンは,全長665〜723bpで第1エキソンの構造が異なる3つのクラス(I〜III)と全長395bpで第3エキソン部分と5'側に非相同のエキソンを持つクラスIVに分類された。エキソンごとに相同性を見ると,第2エキソン(89〜92bp)と第3エキソン(293bp)はクラス間でも91〜95%の高い相同性を示した。一方,第1エキソン(282へ341bp)は,各クラス内では相同性が98%以上で高いが,クラス間の相同性が60%台で低い。第1エキソンには,クラス間で部分的な欠失や挿入があり,長さも異なる。サザン解析によると,多重遺伝子族はライムギ属に多数コピー存在するほか,1粒系コムギ,タルホコムギ,ダシパイラムに中度のコピー数で存在する。さらに,これらの種から得た多重遺伝子旅のcDNAは主要2クラス(1:27%, II:47%)に属し,多重遺伝子族の種属間でのエキソン多型の保存性とコピー数の増減が示唆され,ムギ類進化の標識として着目される。
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