コムギにトウモロコシの花粉を交雑すると、トウモロコシの雄核はコムギの卵細胞と受精し、雑種胚を形成する。その原因を調べるため本研究を行った。まず、雑種胚を形態を保ったままで観察するため組織切片をつくり、それにトウモロコシのゲノムDNAをプローブとして蛍光インシチューハイブリダイゼーシヨン(FISH)を行い、トウモロコシ染色体を識別して、その行動を明らかにすることを試みた。しかし、パラフィン包埋による切片では、微量な染色体DNAのシグナルを検出できなかった。凍結切片も試したが、十分な質をもつ切片を得るのは困難であった。そこで、透水性樹脂であるテクノビット7100で組織を包埋し、それにFISHする方法を開発した。その結果、細胞内において特定の染色体の存在を明らかにする事ができるようになった。次に、切片をつくるのではなく、胚嚢を摘出し、これに対してFISHする方法を試行した。その結果、固定方法やハイブリダイゼーション液の変更によって、シグナルを確実に得る方法を見いだした。また、シグナルをデコンボリューション顕微鏡や共焦点レーザー顕微鏡にて、立体的に観察する方法も確立できた。この方法によって、実際にコムギとトウモロコシの受精卵と初期発生を調査した。その結果、1.トウモロコシの雄核はコムギの卵細胞と合体後、核融合を行うこと、2.融合した核内ではトウモロコシ染色体もDNA複製を行うこと、3.第一分裂の前期で、トウモロコシ染色体は赤道面への移動が遅れること、4.その結果、後期でトウモロコシ染色体の多くが取り残されること、を見いだした。また、αチューブリン抗体を用いた免疫抗体法によって、トウモロコシ染色体の異常行動を調査したところ、トウモロコシ染色体の動原体は狭窄をもつにもかかわらず、紡錘糸が付着していないことがわかった。何らかの動原体タンパク質が動原体に欠損しているためであると考えられた。
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