本研究はダイズにおける花器脱落を個体の適応戦略としてとらえ、花器脱落の機作を作物学的に解明しようとする。 13年度はダイズ祖先野生種ツルマメを供試し、栽培種との比較を行った。その結果、野生種から栽培種への馴化過程で、蔓性が無くなり、分枝・椏枝の発達が抑制され、節数が減少した、低次位から高次位へと進行する開花習性は変わらず、花蕾数は大幅に減少し、結莢率が高くなった、収量特性からみて莢数が減少する一方で一粒重が増加して収量が確保される、光合成速度は高くなり葉面が大きく高い乾物増加速度が維持される、などの結果が得られた。 14年度は伸育性の異なるダイズ品種の開花結実特性に検討を加えた。低次位花房から高次位花房へと移行する開花の推移は有限伸育型<有>と無限伸育型<無>で同じ傾向であった。花器脱落については<有>では高次位になるほど脱落数が多くなったが、<無>では1次と2次で最多となった。結莢率はすべての花房次位で<有>が高くなった。 15年度は特に地球の温暖化など温度条件の変化に対する花器脱落制御機構の戦略に検討を加えようとした。日中の温度のみを上昇させるTGC(Temperature Gradient Chamber)を作製し、気温上昇がダイズの開花・結実・子実収量に及ぼす影響を検討した。その結果、花蕾数は高温によって抑制されず、結実率、子実収量および乾物重は高温側において最も高くなることが明らかになった。 ダイズの生育・乾物生産・結実・子実肥大の適温は普通栽培における気温よりも高いことが明らかとなった。地球温暖化など高温条件はダイズの生産性を向上させることも予測されるが、高温障害が発生する場合は、開花期の高温を回避するような作期、品種を選択し、花器脱落を生じさせない必要がある。
|