無菌播種したケイトウ実生が、窒素添加培地では本葉形成後に花芽分化するのに対し、窒素無添加培地では子葉展開後、本葉形成なしに花芽分化する現象を示すことを利用し、発育相が生殖生長相へ転換するときに特異的に発現するmRNAの検索を試みた。 1.最も適切なRNAサンプリング時期を決定するため、播種後の時期を変えて窒素添加または窒素無添加培地へ相互に移植を行った。その結果、播種後6〜14日に質的転換が決定されていた。そこで播種後4、6、8、14日目にサンプリングを行うこととした。 2、茎頂部の形態観察結果から、窒素欠乏条件下で生長点膨大が始まるのは播種後4週間前後であった。窒素吸収の期間が長いほど形成本葉枚数は増加し、また硝酸還元酵素の活性も高く維持された。 3.培地への窒素添加の有無にかかわらず、播種後2週間目まではFT遺伝子の発現は認められなかった。 4.蛍光ディファレンシャルディスプレイ法により、窒素無添加培地の実生で特異的に発現する遺伝子の探索を行った。窒素無添加培地および窒素添加培地で育成した実生から抽出したmRNAをFluorescent Differential Display法で比較した。RT-PCRは9種の蛍光Downstream primerと24種のUpstream primerを組み合わせた216通りのうち、25通りを実施した。その結果、播種後4〜12日目に窒素無添加培地で強く発現するmRNAバンドが8本確認された。これらをクローニングしpoly-A配列が確認された27種類のクローンについて塩基配列の解析を行ったところ、14クローンはチューブリン関連遣伝子など既知の遺伝子と相同性がみられたが、13クローンは未知の遺伝子であった。既知の花成関連遺伝子との相同性はみられなかった。 5.一部のクローンについてノザンハイブリダイゼーションを行い発現時期の解析を行った。しかし、分析を行ったmRNAは窒素無添加培地でのみ特異的に発現するものではなかった。当該研究期間内に目的とした窒素飢餓状況下で花成誘導に関わると推定される遺伝子を見出すことはできなかった。
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