(1)平成14年度に引き続き、カリクロン植物作出のための培養条件の検討を行った。継代維持しているニホンナシ'おさ二十世紀'のカルスを材料に用いて、植物成長調節物質、培地添加剤等の種類および濃度について検討した。その結果、WP培地を基本とし、植物成長調節物質として、オーキシンおよびサイトカイニンを用いた場合、いずれの培地においてもカルスから不定芽や不定胚の形成はみられず、再分化個体を得るまでには至らなかった。 また、外植体として、本年度は'おさ二十世紀'のほかに'長十郎'および'幸水'の茎頂を用いて培養を行った。その結果、'長十郎'では、WP培地の無機塩類に、植物成長調節物質として、オーキシン、ジベレリンおよびサイトカイニンを組合せることにより、不定芽が旺盛に発生することが明らかとなった。 (2)平成14年度に'おさ二十世紀'より採取したナシ黒斑病菌を単胞子分離し、胞子形成能および毒素生成能の高い菌株をスクリーニングし、増殖させた胞子を-80℃の超低温フリーザー中で凍結保存した。これらの胞子については定期的に胞子形成能および毒素生成能を調査しているが、保存時の特性は失われていないことを確認した。 これまでの研究によってニホンナシ'おさ二十世紀'における組織培養について多くの新知見を得ることができた。その一方で、十分な大量増殖の培養条件を見出すことができなかったことから、所期の目的であるナシ黒斑病耐性個体を選抜するまでには至らなかった。しかし、ニホンナシ'長十郎'においてマルチプルシュート形成の培養条件を確立することができた。このことから、'おさ二十世紀'においても同様の方法でマルチプルシュートを形成させ、ナシ黒斑病耐性個体を選抜する可能性が示されたものと考えられる。
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