植物と病原菌との間には、植物側の抵抗性遺伝子とそれに対応する病原菌側の非病原性遺伝子との組合せにおいてのみ抵抗反応に至るという遺伝子対遺伝子の関係が存在する。この植物の抵抗反応の主要な機構として、病原菌の侵入部位周辺の細胞が急激に死ぬ過敏感反応が知られている。シリンゴライドはPseudomonas syringae由来の非病原性遺伝子avrDを持つ細菌により産生され、抵抗性遺伝子Rpg4を持つダイズ品種に過敏感細胞死を引き起こすエリシターである。本研究ではこのシリンゴライドによる過敏感細胞死の機構について解析を行っている。これまでにシリンゴライド処理した抵抗性品種のダイズ培養細胞において発現誘導の認められる遺伝子断片をディファレンシャル・ディスプレイ法により単離した。これらのうちシリンゴライド処理により細胞死を起こさない罹病性品種のダイズ細胞においてはほとんど誘導されない数クローンについて全長cDNAを単離した。これらの発現誘導は、ファイトアレキシン蓄積を誘導するが細胞死を誘導しないβ-グルカンエリシターでは起こらず、シリンゴライド特異的であると考えられる。さらにこれら遺伝子の発現および細胞死にはカルシウムイオンの関与が示唆されたが、過酸化水素、サリチル酸やメチルジャスモン酸といった植物の防御反応に関わるとされる物質の影響をあまり受けなかった。これらのことから、単離した遺伝子の発現誘導はシリンゴライドに特異的な経路を通じて起こり、過敏感細胞死に関与している可能性が示唆された。
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