イチゴマイルドイエローエッジ病の病原ポテックスウイルス(SMYEPV)は他のポテックスウイルスとは異なり師部伴細胞に局在するが、これには細胞間移行に関与するトリプル・ジーン・ブロック(TGB)タンパク質の1つ(TGBp1)の発現が関係しているという仮説をたてた。まず、未解析である本邦産SMYEPVのS2-1株ゲノムの全塩基配列を決定した。その結巣、S2-1株ゲノムには多様性が認められ、少なくとも2種のゲノム型AとBがあることが明らかとなった。AタイプとBタイプは83%、既報のUSA産MY-18株とはそれぞれ85%と82%の塩基配列相同性を示した。Aタイプ、βタイプともに、TGBp1をコードするはずのORF2に相当する領域には翻訳開始コドンAUGが認められず、SMYEPVのTGBp1は、非AUGコドンにより翻訳開始される可能性が強く示唆された。そこで、ORF2に相当する領域のin vitro転写産物およびその変異体を用いたin vitro翻訳実験を行い、TGBp1はAUGではなくCUGコドンで翻訳開始されることを明らかにした。その翻訳効率はAUG翻訳開始に比べ明らかに低かった。このことから、SMYEPVでは細胞間移行に関わるTGBp1が充分量翻訳されていないために、師部細胞で増殖したSMYEPVが隣接細胞に余り移行できない可能性が考えられた。 仮説通りであれば、TGBp1をAUG翻訳開始にすることにより、SMYEPVの増殖が葉肉細胞に至ることが考えられる。これを検証するために、SMYEPVの複製をモニターする感染性cDNAクローンの作成を試みた。BタイプのcDNA断片をつなぎ合わせて全長cDNAを作成し、更に、CaMV 35SプロモーターおよびCaMVターミネーターを全長cDNAに連結した。本研究において、感染性cDNAクローンを用いたSMYEPV複製モニターシステムの基礎を築いた。
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