植物に接種したナシ黒斑病菌胞子は発芽して発芽管を形成し、発芽管先端が膨化して付着器が作られる。その後付着器底部から生じた貫穿菌糸は表皮細胞の細胞壁に侵入を試みる。感染時に見られる貫芽菌糸は植物に対する最初の病原菌の攻撃器官である。そのため貫穿菌糸は菌の侵略力が発揮される感染器官と評価できる。菌の貫穿菌糸は、感受性ナシ葉のクチクラ層を突破した後、直下の表皮細胞に直接侵入せず、ペクチン層とこれに連続する中層に沿って侵入菌糸として伸長して組織に増殖する。それに反して、抵抗性ナシ葉に接種した菌はクチクラ層に微侵入するが、それ以降の侵入行動は制限される。このことは抵抗性葉では、貫穿菌糸の侵入時にナシ葉の抵抗性機構がすでに発動することを意味する。病原性発現に関わる活性酸素の生成が病原菌の感染器官に認められた。活性酸素の検出は塩化セリウム法とエネルギーフィルター電顕法を併用して行われた。抵抗性葉に接種した菌の付着器底部と貫穿菌糸先端の細胞壁のみに活性酸素の生成を認めた。貫芽菌糸は付着器底部から生じるので、これら2つの生成部位は同一部位として評価できる。一方、感受性葉と菌の組合わせでも、抵抗性葉の場合と同様に、付着器底部と貫穿菌糸に活性酸素は出現したが、ペクチン層で増殖する侵入菌糸の細胞壁には活性酸素の生成は認められなかった。生成した活性酸素により貫芽菌糸先端の細胞壁を硬化させて侵略力を増強させていると考えている。病原菌ストレス以外に、菌の生産するAK毒素を処理した宿主細胞の原形質膜障害部位に活性酸素の生成が観察された。活性酸素は多くの植物病害では抵抗性機構誘導のシグナル分子としての評価が確定しつつある。しかし、本研究の結果から、菌感染や毒素処理した宿主組織の系で病原性発現にかかわる形で菌側と植物側の双方に活性酸素が生成することが判った。
|