研究概要 |
病原シグナル因子としての宿主特異的毒素(HST)に焦点を絞り,植物病原菌における病原性の獲得機構,あるいは特異的感染機構を分子レベルで解明することにより、新たな病害防除法の創生を目指す目的で研究計画を遂行した。実験では,HST生産菌として代表的なAlternaria属菌であるトマトアルターナリア茎枯病菌(AAL毒素生産菌)を主に題材とした。 茎枯病菌の生産するAAL毒素はポリケチド化合物であるが,その生合成に関与するPKS遺伝子ALT1のクローニングに成功した。本遺伝子は、菌のPKS遺伝子に特徴的な多機能酵素としての配列を有していた。ALT1のジーンターゲッティングの結果、本遺伝子が茎枯病菌における毒素生産能、さらに病原性を支配していることが明白となった。毒素生産菌の染色体構造を,パルスフィールドゲル電気泳動法(PFGE)による核型分析を用いて解析した。その結果,病原性菌(HST生産菌)が非病原菌には存在しない付加的小型染色体を有していることを見出した。さらに本染色体が,菌の生存などには関与しないが,病原性など特定の形質を支配するCD染色体である可能性を提唱した。また,交配による遺伝解析が不可能であるAlternaria属菌において,プロトプラスト融合法による遺伝分析法を確立した。本法により,上述のHST生産菌における毒素生産能および病原性が優性あるいは上位の形質であることを初めて明らかにした。さらに異なる病原型同士の融合株を作出し,PFGE解析により融合株が各親株由来のCD染色体を保持すると同時に親株の両宿主に対する病原性も示すことを明らかにした。また,茎枯病菌由来のCD染色体欠失変異株が病原性および毒素生産能を欠損していることを見出した。これらの結果より,本病原菌におけるCD染色体の病理学的意義が明確となり、CD染色体の水平移動による病原性の進化と分化に関する仮説を提唱した。 以上の研究成果より,本課題である「植物病原菌の病原シグナル因子生産に基づく宿主識別機構」解明に向けて大きな進展が得られたと考える。
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