本研究では、カンキツに異なる病徴を誘起するA. citri(黒腐病菌)とA. alternata rough lemon pathotype(Brown spot病菌)からendoPG酵素蛋白とその遺伝子をそれぞれ単離し、標的遺伝子破壊法を用いてendoPG単一欠損株を作出した。両菌はいずれもAlternaria属菌であるが、これらの欠損は両菌の病原性にまったく異なる変異を及ぼした。HSTを分泌して壊死斑形成を誘起するBrown spot病菌では、endoPGの単一欠損はその病徴に何ら変化をもたらさなかったが、腐敗症状を誘起する黒腐病菌ではendoPGの欠損によりその病徴誘起は著しく抑制され、また精製した細胞壁粉末やペクチンを単一炭素源とした場合には黒腐変異体は成長できなかった。また、GFP遺伝子を挿入した組換体を作出し、カンキツ果実中におけるA. citriの感染行動を緑色蛍光発光を利用して観察した。本菌のendoPG欠損変異株M60についてもGFP遺伝子を挿入した組換体を作出し、野生株のGFP遺伝子導入株の感染行動と比較し、カンキツ侵入時におけるA. citriのendoPGの生産は、果実内部への侵入時と黒腐症状の誘起には必須であるが、砂じょう部に菌糸を展開する場合には、果肉や果汁にふくまれる糖や酸によりendoPGは重要な役割を果たしていないことを明らかにした。さらに、GFP遺伝子産物由来の緑色蛍光発光を利用したendoPG遺伝子プロモーターの活性化様式に関するレポーター解析を行ない、砂じょう部に展開する本菌のendoPG遺伝子は果汁中のグルコース、フルクトース、シュークロースにより抑制され、かっこれらの糖が成長しうるに十分な栄養源になり、砂じょう部における菌糸展開にendoPGは全く必要ではないことを明らかにした。また、endoPGと反応して抵抗性を誘導するPGIP研究モデルの確立、およびタギング法/REMI法を用いて本菌の病原性欠損変異株を作出し、その中の一つである変異株4-2はヒスチジン要求性であることを明らかにした。そこでヒスチジン生合成酵素imidazole glycerol phosphate dehydratase (IGPD)に着目し、ヒスチジン生合成と病原性の関連を標的遺伝子破壊法により検定するためにIGPD遺伝子を単離した。現在このIGPD遺伝子の標的遺伝子破壊が進展中であり、今後本酵素(=ヒスチジン合成)の病原性における役割が明らかになる。
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