キュウリモザイクウイルス(CMV)は宿主域が広く農業上の重要ウイルスの一つである。しかし、CMVの研究は、日本をはじめとする温帯地域の分離林を用いた例が多く、熱帯産CMVについては少ない。本研究では、東南アジア産のCMVを中心に、Cucumis meloにおけるCMV抵抗性品種の探索、バナナから分離したインドネシア産CMVの解析、インドネシア産CMVサテライトウイルスの解析、さらには、フィリピンとインドネシアに合わせて日本産のCMVの系統解析を行った。その結果、CMVに対する抵抗性遺伝子の研究例は少ないが、Cucumis meloでインドネシア産CMVおよび日本産のCMVに抵抗性を示す品種を得ることができ、CMV抵抗性遺伝子検出マーカーの開発を行った。また、CMV宿主の中から単子葉植物としてバナナあるいはMusa属植物に、双子葉植物としてトマトに着目してCMVの収集を行った。バナナにおいては異なる病徴を示す複数のCMVを得てそのゲノムの塩基配列の一部を解析した他、バナナ品種による反応を比較した。また、東南アジアでは研究例が無いと思われるCMVサテライトを、インドネシアのトマトから得て塩基配列を明らかにし、その特徴を示した。また、日本ではCMV発生の報告が無いレースフラワーから分解した。一方、収集したCMV分離類を中心に系統分類を試みたところ、血清学的にはSubgroup IIに分類される5分離株を得た。また、3分離株は、PalkaitisらによるAsian strainsに属すると考えられた。分離株や地域による傾向を考察するだけの分離株は収集できなかったが、東南アジア産CMVの多様性を示すとともに、宿主側からは抵抗性品種の選抜、あるいは、病原性の異なるCMVの獲得について、これら東南アジア産あるいは熱帯産CMVの探索が有用であることを示した。
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