研究概要 |
ボンビキシン遺伝子の上流域を欠損させた様々なレポーター遺伝子を、カイコガ5齢幼虫(Bombyx mori)の脳に導入し、プロモーター解析を行った。プロモーターの検定には、GFP(Green Fluorescent Protein)レポーター遺伝子を脳にエレクトロポレーションにより直接導入し、一過性の発現を解析する系を用いた。転写エレメントは、脳内ボンビキシン産生細胞(脳中央部に位置する左右4対、計8個の神経細胞)でのみ転写させうるもの、ボンビキシン産生細胞での転写量を増加させるものの2種が見つかった。1塩基単位で、上流域を欠損させたものや、塩基を置換させたものにより、前者、すなわち細胞特異性を司るエレメント(BOSE, Bombyxin gene-Specific Elementと命名)の配列が5'-AAACCTACACAC-3'であること、後者、すなわち転写量を増加させるアクティベータが5'-TCAAG-3'であることを示した。BOSEは既知のエレメント配列と相同性を有しない新規な配列であった。一方、後者はカ(Anopheles gambiae)において、腸で発現するトリプシン遺伝子の転写エレメントと相同性を有していた。ここで得られた転写エレメントは、脳内の特定の細胞でのみ発現させうるエレメントであり、今後、遺伝子操作昆虫において特定細胞で遺伝子を発現させる武器となる。また、脳での転写を増加させるエレメントと腸での転写を司るエレメントの相同性は、脳神経分泌細胞-腸ホルモン産生細胞の同一起源説に示唆を与えるものである。
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