研究概要 |
1.ボンビキシン遺伝子の脳神経細胞特異的転写エレメントの同定を行った。転写エレメントは、脳内のボンビキシン産生細胞(脳中央部に位置する左右4対、計8個の神経細胞)でのみ転写させうるもの(BOSE, BOmbyxin gene-Specific Elementと命名)、ボンビキシン産生細胞での転写量を増加させるものの2種を同定した。これら転写エレメントは、今後、遺伝子操作昆虫において特定細胞で遺伝子を発現させる武器となる。 2.ボンビキシンAファミリー遺伝子はペアを構成する遺伝子のみが発現しておりトリプレットを構成する遺伝子は発現していない。このことは、プロモーター部位の遺伝子配列に加えて、遺伝子構成が転写に影響を及ぼしていると考えられる。実際、レポーター遺伝子を用いた実験では、ペア、トリプレットといった遺伝子構成が転写に影響を及ぼしていることが示された。遺伝子の向きと順番が遺伝子発現に重要であることが端的に示される実験系は本系以外になく、新たな転写調節機構を提示しうると考えられる。 3.カイコバキュロウイルスを用いた遺伝子導入系の開発を行った(理化学研究所分子昆虫学研究室 本賢一特別研究員、松本正吾主任研究員との共同研究)。BmNPVを遺伝子導入用ウイルスとして、発現ドライバーとしてボンビキシン遺伝子プロモーター、前胸腺刺激ホルモン遺伝子プロモーター(脳背側側方部の2対4個の神経分泌細胞で発現)他を用いた。ボンビキシン遺伝子プロモーターおよび前胸腺刺激ホルモン遺伝子プロモーターをドライバーとした場合、100%近い導入効率で、それぞれの神経分泌細胞でのみ発現がみられた。本導入法により、これまで遺伝子発現や作用の解析を行いたくても困難であった昆虫での分子生物学的研究が大いに触発、促進され、昆虫の持つ多様な遺伝子資源の解明と、その利用が急速に進むはずである。
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