アーバスキュラー菌根菌が感染したミヤコグサの根の染色処理(KOH処理)時に、感染している根としていない根とではKOH溶液の色に差異があることが見出された。この事から菌根菌の感染により植物の2次代謝産物であるイソフラボノイド生合成系に変化が生じている事が示唆され、これを詳細に解析することにより菌根菌共生メカニズムに関する知見が得られると考えた。そこで、菌根菌感染あるいは非感染条件で栽培したミヤコグサを用い、菌根菌の感染に伴う縮合型タンニン(イソフラボノイド生合成経路の終着点)の根、葉、茎における生成量の変化を調べることにした。 ミヤコグサ(Lotus japonicus)野生株Gifu、樹枝状体超着生変異体Ljsym78-2、菌根菌の共生がブロックされている変異体Ljsym72を菌根菌(Glomus sp. R-10)接種、非接種条件で栽培した。60、90日目に根、葉、茎に分けてサンプリングした。各サンプルの可溶性タンニンをアセトン抽出し、残渣の不溶性タンニンと共にブタノールによって着色し、吸光度測定により縮合型タンニン含量を求めた。(茎、葉についてはアセトン抽出前にジエチルエーテルで緑色色素を除去した。) 野生株Gifuならびに樹枝状体超着生変異体Ljsym78-2の根では、菌根菌が感染すると縮合型タンニンが減少した。菌根菌が感染する時には根のイソフラボノイド生合成が抑制されると考えられる。タンニンやある種のイソフラボノイドは抗菌作用を有することから、この生合成を抑制することが菌根菌共生の成立に必須だと考えられる。一方、共生のブロックされている変異体Ljsym72の根では縮合型タンニンの減少が見られなかった。この変異体は菌根菌を認識することができないため、根でのイソフラボノイド生合成の抑制が起こらず、抗菌作用が働いて感染が進まなかったと考えられる。 野生株Gifuの葉および茎においては、根での菌根菌感染により縮合型タンニンが増加した。根における菌根菌感染に応答した地上部でのイソフラボノイド合成の促進は、病原菌感染に対する全身的誘導抵抗性に類似しており、菌根菌を利用した植物地上部における耐病性向上への応用が期待される。また、地上部でのイソフラボノイド合成を介した、根における菌根菌感染領域制御メカニズムの存在の可能性も示唆された。
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